めも。

From　瑠衣

　身体が水の中で揺らぐ。無重力の世界は気圧が低く、頭の中が圧迫されるような感覚に襲われる。頭の中がキンキン痛んで、滲んだ涙がプールの水に溶けていく。ごぽっと、酸素が口の中からこぼれ、身体がより深層へと沈んでいく。苦しい。こわい。未知の体験が、とても恐ろしい。
だけど、これでいいのだ。
　だって、僕はこれから死ぬのだから。
　何でか、と訊かれれば、なんと答えればいいのか、少し困る。
　別段、ノイローゼとか、イジメとか、そんな環境的要因ではないし、人生に疲れたとか、そんな安直なものでもない。
　強いて言えば、飽きた、のだろうか。
　何か特別な変化などない日常に退屈を感じ、飽きた。だから、この人生という舞台から去ろうと思うのだ。なにも告げず、誰にも悟らせずに。
　今日、僕がいなくなっても、何事もなくこの世界は機能していく。僕という欠片の欠落は他人という欠片が産み落とされることで簡単に修正されていってしまうのだから。
僕はそんな循環された世界の中で、欠片として生きるのに、飽きたのだ。空白を埋めるためだけの存在など、生死の是非など関係ない。作られた友好関係も、僕にとっては表面上のことでしかない。
　退屈なのだ。生きるのが。
　飽きたのだ。生きることに。
　だから、僕は死ぬことを選ぶのだ。