ネタ

――何度目かなど、覚えていない。覚えてなどいたら発狂するに違いない。

刺殺された。

舞台は夜の町。
見知らぬ男が俺を路地裏に連れ込み、凶悪な解剖術をこの身に刻みつけた。

凶器はコンバットナイフ。

最初に刺されたのは腹。
内臓まで届くのではないかと危惧するほどに深く食い込んだ。 
男はさらに突き刺したナイフを半回転させる。

抉られるような痛みと嘔吐感。
刺された箇所は熱いのに、それ以外の場所が冷えていく気味の悪さ。 

男の狂気は止まらない。
心臓を貫かれ、４つに解体された。
五臓六腑は体外に引きずり出されて手で引きちぎられる。 

普通ならばとっくに死んでいるほどの傷。
だというのに、感覚は痛みを鮮明に拾い上げ、絶え間ない苦痛を供給し続ける。 

死んだ方がマシだ、と言う者を、弱者の逃げ道だと蔑んできた。
けれど。
この有り得ない痛みから解放されるというのならば、俺は喜んで命を捨てよう。 
それは逃げだと蔑むのならば、この痛みに耐えてみろという。 

空気が煉獄のように熱いと感じたことも、生きたままハラワタを引きちぎられる苦痛も、体中を滅多刺しにされる痛みも、何もかもを知らないから言える台詞なのだと説いてやろう。
と、取り留めもないことを考えている間も、歪な解体劇は続く。
この夢がさめるまでは、終わらない。

目が覚める。体中から吹き出た汗で、下着も、服も、シーツさえもぐっしょり濡れてしまっている。 

「はっ、はっ…、はぁ、はぁ……」 

息を整える。
何だったのだろう、今の夢は。とても怖い夢だった。 

ふう、と息を吐く。
わからないから、忘れよう。それが一番だ。

そう思ったのだけれど――これはほんの始まり。悪夢は毎夜、姿を変えてやってくる。